実行場所の違いが、そのまま運用の違いになる
AIコーディングエージェントを「クラウドで動かす」と言ったとき、実際には性質の異なる3つの形態が混ざっている。この区別を曖昧にしたまま製品を比較すると、「PCを閉じても動き続けるはずだったのに止まっていた」という食い違いが起きる。
分類の軸は、プロセスとコードがどこに存在するかだ。手元のマシンでエージェントが動くローカル実行、エージェント本体は自分のマシンで動きスマホやブラウザは操作窓口にすぎないリモート接続、そしてベンダー管理のVMにリポジトリがcloneされてそこで動くクラウド実行。この3つは、電池もメモリもポートも、消費される場所が違う。
同じ「クラウドエージェント」だが、力の入れどころが違う。
Claude Code on the web
リポジトリをAnthropic管理のクラウドVMにcloneし、そこで編集・テスト・pushからPull Request作成まで実行する。処理の実体がクラウド側にあるため、ブラウザを閉じても作業は継続し、スマホから進捗を確認できる。非アクティブなセッションは期限切れになることがあり、その場合は新しいVMが作られて会話履歴が復元される。
特徴的なのは、クラウドで進めた作業をローカルのCLIへ引き継ぐteleportが用意されている点だ。同一アカウント・同一リポジトリで、gitがclean、かつブランチがpush済みという条件を満たす必要がある。細かい仕上げはローカルで、という現実的な運用を前提にしている。
なお無料プランでは利用できず、Pro/Max/Team以上が対象。リサーチプレビュー扱いのため、対象プランや上限の変動が速い。
Codex:Cloudとモバイル窓口は別系統
Codexまわりは名前が近い機能が並んでいて、混同が起きやすい。分けて理解しておきたい。
Codex Cloud はOpenAIのクラウド環境でエージェントが並列動作する形態で、GitHub連携によりIssueやPRへの@codexメンションからタスクを起動できる。これは前述の「クラウド実行」に該当する。
ChatGPTモバイルアプリのCodex は別物だ。これは自分のMac上で動いているCodexへの窓口であり、コードや認証情報、ローカル設定は接続先ホストに残る設計になっている。スマホ側にリポジトリが同期されるわけではない。つまりこちらは、母艦マシンを起動したままにしておく必要がある。「スマホから開発できる」という同じ売り文句でも、前者はPCを落とせて後者は落とせない。
Cursor Cloud Agent
旧称Background Agent。隔離されたLinux VMで自走し、環境をセットアップしてコードを書き、テストまで通してmerge-readyなPRを出す。
2026年2月のComputer Use対応で性格が変わった。各エージェントがデスクトップとブラウザを持ち、自分でlocalhostを開いてUI要素をクリックし、変更が実際に動くかを目視で検証する。作業内容は動画として記録され、PRにはスクリーンショットとログが添付される。レビュー側はdiffを頭の中でシミュレートする代わりに、動いている様子を数十秒の動画で確認できる。エージェントのリモートデスクトップに接続して自分で触ることもできる。
動作確認まで含めて委任したいなら、現時点ではここが一歩先を行っている。
| Claude Code on the web | Codex Cloud | Cursor Cloud Agent | |
|---|---|---|---|
| 実行環境 | Anthropic管理VM | OpenAI管理サンドボックス | 隔離Linux VM(デスクトップ付き) |
| ブラウザでの動作検証 | 限定的 | 限定的 | 対応(動画・スクショ付きPR) |
| 起動経路 | Web / モバイルアプリ | Web / GitHubメンション | Desktop / Web / Mobile / Slack / GitHub |
| ローカルへの引き継ぎ | teleport | 差分を承認してローカル反映 | ブランチをpull |
| 必要プラン | Pro以上(Free不可) | Plus以上に追加料金なしで同梱 | 有料プラン必須 |

ローカル開発の課題に効くか
クラウド実行に興味を持つ動機として、機能そのものより「今の環境が苦しい」という側面から入るケースが多い。課題別に効き方を見ていく。
ポート衝突は構造的に消える。ただし動機としては弱い
複数プロジェクトを同時に立ち上げてポートがぶつかる問題は、クラウド実行なら各タスクが独立VMを持つので原理的に発生しない。
ただし、この課題だけを理由にクラウドへ移行するのは過剰だと言っておきたい。ポート衝突はDocker Composeでプロジェクトごとに固定ポート帯を割り当てるか、devcontainerで分離すれば解決する。クラウド実行はワークフロー全体を作り替える選択なので、ローカルで完結する課題の解決策として選ぶと、割に合わないコストを払うことになる。
バッテリーとメモリは確実に軽くなる
こちらは正当な動機になる。ビルド、テストスイートの実行、大規模なリファクタリングといった重い処理がベンダー側のVMに移るため、手元のマシンはブラウザとエディタだけになる。ノートPCで長時間の自走タスクを回すと発熱と電池消費が無視できないが、その負荷ごと外に出せる。
常時起動マシンを用意できるなら、Cursorのremote agent workerのように「計算資源は自分のマシン、操作はどこからでも」という中間解もある。この場合ベンダーのVM料金はかからないが、マシンを起動し続ける必要がある。
スマホからできるのは「開発」ではなく「監督」
ここが期待とのズレが出やすい。クラウド実行に移ると、開発ループの形そのものが変わる。
移動中やベッドの中でスマホからできるのは、出力のレビュー、コマンドの承認、方向修正の指示、新規タスクの起動といった監督業務だ。小さな画面でゼロからコードを書くことは想定されていないし、そこを期待すると失望する。逆に言えば、「承認待ちで止まっている時間」を移動時間で潰せるようになるのが本質的な価値になる。
導入前に詰めておくべきこと
リポジトリ前提の非同期ワークフローになる
クラウド実行は、GitHubリポジトリをcloneして、ブランチを切って、PRを出すという流れを前提にしている。gitで管理されていない作業や、コミット前の散らかった状態から始める探索的な作業とは相性が悪い。
環境構築コストが前倒しで来る
ローカルDB、外部APIのモック、.envの秘匿情報、シードデータ。これらをVM上で再現するためのセットアップスクリプトを先に整備する必要がある。ローカルでは「なんとなく動いている」状態のものが、クラウドでは明示的に定義されていないと動かない。この初期コストを見積もらずに始めると、最初のタスクで詰まる。
裏を返せば、この整備は環境の再現性を上げる作業でもある。新メンバーのオンボーディングやCIの安定化にも効くので、まったくの捨てコストではない。
課金モデルの違いを把握しておく
Codex CloudはChatGPTの有料プランに含まれる形で、Claude Code on the webはPro以上のプラン枠内で使う。一方Cursorのクラウドエージェントは常にMax Modeで動作するため、50ステップ程度のタスクでおよそ0.3〜0.6ドル、複雑なタスクでは4〜5ドルに達することがある。
長時間の自走と並列実行はトークン消費が増える。軽い作業はローカルのCLI、重い並列作業だけクラウド、という線引きが実務的だ。最初の数タスクで支出上限を設定し、ダッシュボードで実績を確認して感覚を合わせておきたい。
実務的な線引き
最初に試すなら、すでに契約しているサブスクリプションの側から入るのが無駄がない。Claude Proを持っているならClaude Code on the web、ChatGPT Plus以上ならCodex Cloudが追加費用なしで使える。Cursorを主力エディタにしているなら、動作検証まで委任できるCloud Agentの恩恵が最も大きい。
そのうえで、対象タスクは選ぶ。テストの追加、機械的なリファクタリング、要件が明確な関数の実装といった、範囲が限定され反復可能な作業はクラウドに向く。アーキテクチャの判断や、仕様が固まっていない探索的な実装は手元に残す。速度は上がるが、判断と責任は移譲されない。